思わぬメンバー追加に動揺した私だが、よくよく考えてみると、これ程面白い舞台もなかなか無い。
ならば、全力で挑んでやるぜ―。
そう思った矢先、それは起こった。

社会人(いわゆる「一般の部」)バンドに所属している人は、たいていの場合、何らかの職業に就いている。
私も例外ではなく、仕事の合間を縫って、少ない練習時間で何とかやっていくことになるのだ。
ある日、職場の上司がこんな事を言い出した。
「これから、君には出張に出てもらうことが多くなる。」
―何ですと!?
出張自体は、まあ、仕方が無いのだが。問題は、時期が演奏会と重なっていること。
―これは、非常にまずい。最悪、代打が必要か―?
職場での打ち合わせの結果、何とか演奏会当日の休みは確保したものの、練習時間を大幅に削られることとなってしまった。

そんな中、最初の合奏の機会は訪れる。
その日は私の曲をやらない予定だったのだが、時間が余ってしまったようだ。
指揮者から声がかかる。
「Tassanic、出番だよ。」
―うおっ、いきなりか(笑)だが、練習する機会は限られている。―やってやるぜ。
指揮者の要望により、本番私が立つ位置、指揮者の横で演奏することになった。
協奏曲は、もちろん指揮者がいるのだが、曲の性質上ソロ奏者の裁量による部分が極めて大きい。
つまり、ソロ奏者がどういう風に演奏したいのか、指揮者が汲み取って伴奏をまとめていく必要がある。
指揮者とソロ奏者の意思疎通という面において、練習の段階から本番の位置を想定していく必要があるのだ。
前に出て行き、楽団のメンバーを見回す。こんな感覚は初めてだ。
なるほど、これがソリストの視点か(実際には、客席の方を向いて演奏するのではあるが)。
いつまでもボーっと立っているわけには行かない―行くぜ。
この曲は、私の音によって幕を開ける。―おおっ、私の旋律に合わせて楽団全体が動く。
これは面白い―などという余裕があればいいのだが―実際には、私の演奏はまだまだ未完成なものであった。
流石に、このままではまずい。更なる精進が必要だ―。

続く