バリ・テューバの演奏会会場に乗り込んだ我々。
さて、どうなったか。

前編で書いたとおり、この時演奏される曲は難曲揃いであった。私も、百パーセント演奏できるかは微妙と言うところであったが…。待ち時間の際、メンバーにこの点を聞いてみた。
団長は、「高い音が多くて疲れるね。」と。
パートリーダーはこう言った。
困ったときは、エアユーフォだ!
―エアギターならぬ「エアユーフォ」って…確かにメンバーは十分にいるので、吹き真似でやり過ごすことも出来るが…。しかし、ウィルソン使いにはあるまじき発言だな(笑)
団長と私、思わず、口を揃えてこう言った。
「その楽器、今すぐ俺によこせ(笑)」

リハーサル開始。一通り曲を通して、最終確認。
最も印象に残ったのは、『星条旗よ永遠なれ』であった。なぜかと言うと、吹奏楽版ではピッコロソロとなっているフレーズが、ユーフォニアムに割り当てられているからだ。
―なんという無茶な編曲(笑)これがバリ・テューバの魅力であり、また恐ろしいところでもある。思わず私もエアユーフォ…と言いたいところだが、こと演奏に関しては…私に「逃げ」の2文字は無い。果敢に挑むことにする。ただし、今回はバリトン(ユーフォニアムに似た金管楽器)もいるので、無理なところは休むようにと言う通達は出ていたが。

いよいよ本番直前。舞台裏で待機する。
パートリーダーが話しかけてきた。
「Tassanic は、緊張しないの?」
「うーむ、今日はあんまりしていないな。」
―言われてみれば、私はあまり緊張するタイプでは無いな。それにこの時は、不思議と高揚していた。やはり、凱旋…桜舞う城下町で、再び演奏する日が来ようとは…という感覚が強かったのだろうか。
入場。―懐かしい景色だ。観客席を見渡す。両親…どころか、祖母まで聴きに来ている。思わぬ援軍を得たところで、俄然やる気が出てきた―行くぜ。

私自身にとっては―懸念されていたハイトーンの部分で力尽きてしまった部分はあるものの―全体に、満足のいく演奏となった。団長には「異質な音なのに合っているという、不思議な気分を味わった」と言われたが。
確かに、YEP-321S は細管の楽器で、他の太管楽器の中に放り込むと音が浮きやすいという弱点はあるのだが。しかし私は、この時点で321シリーズを吹き続けて8年目。曲がりなりにも、YEP-642S やら YEP-842S やらを相手に渡り合ってきたのだ。
今回のように、城下町のバリ・テューバのメンバーとウチの団長を相手に合わせるとなると、相当に骨が折れる仕事ではあったが…。
他のパートに目をやれば、テューバパートが全員入れなかった部分があったりとか、ずいぶん危ない橋を渡っていたようだ。何はともあれ、演奏会は無事に終了となった。

終了後は打ち上げ―この店は…大学時代、定期演奏会の打ち上げを毎年やっていた店じゃないか。
店員さんも、どうやら、私に見覚えがあったようだ。…そりゃ、注文する毎に「コーラ!」って言ってりゃ印象にも残るか(笑)
自己紹介…何が起こったのか、私の番になると回りが大盛り上がり。自分が城下町の出身であるということに、共感していただけたのだろうか。まあ、知り合いも何人かいたのだが、初めて出会った人にもそれなりに気に入ってもらえた様である。

翌年もこのイベントは行われるということで、再会を誓って帰途についた私。このときのメンバーとは、後に、思ったよりも早く再会することになる。それはまた、後に「放浪記」で語ろう―。

以上